昔の話は敵だ!

※この記事は悪人プレイ本編に直接的には関わってこない、ギャングワイフのショートです。
※今回は悪人プレイの主人公、アンの過去話です。
ちょっと胸糞です。
読まなくても特に困る事はありません。
でも以降のお話がちょっとだけ掘り下げられて良いかもしれません。

 












〇たまには昔の話を







風の強い夜、私はデルソルバレーのボーリング場に足を運んでいた。
セレブの為のラウンジを潰して建てた大衆向け施設は当然ながら大勢のシム達で賑わっていた。一階にカラオケとボーリング場、二階に映画館を備えたそこは娯楽施設としては完成度の高い物件だ。デルソルバレーを本拠地とするファミリーの管轄によるその場所で、大いに白い金を産む工場として機能するはずである。
最も今日訪れたのは遊ぶ為ではないので、私は大人しくバーカウンターで目的の人物を待とうと思う。

「やぁ、待ち合わせに此処を選ばれちゃあ堪能する他なくてね」

待ち合わせ時刻はあと30分後という早い段階。これからゆっくりとスツールに座って一杯グラスをあおりながら待つ予定だったが、どうも相手はこの施設を先に満喫していたようだった。


「最新の映画を観て満足して立ったら後ろに主演俳優が座っていてね、一生分の運を使ったかと思ったよ。サイン貰っちゃった」
「楽しまれたようで何よりです」


男はエムアンド・エムズ。
エバーグリーン・ハーバーの工業地域の運営を担っている一人だ。自身もその区域で仲の良い者達と共にコンテナを改良したマンションに暮らしているヴァンパイアだ。
血が通っていないので一見ではわからないが、仄かに香るアルコールの匂いにより酔っている事が察せられる。


「それで?僕に聞きたい事ってなんだい」

私はバーテンダーにドリンクを頼む暇さえ与えられず、単刀直入に切り出された。自身でもわかるほど些か面食らった表情を見せて肩を竦める。それから着ていたジャケットの胸ポケットから一枚の写真を取り出して彼が腕を置く机に提示してみせた。




「これは、アルフォートと……
「この青いアウターの男は貴方の存じるアルフォート・ブルボンという男で間違いありませんか?最近こちらの男性が我々の上司の周りを彷徨いている為情報を集めています。しかし、この男の素性を調べようにも"口止め"されている者が多く、安易に辿り着かない」
……それで僕の所に来たんだね」
「そうです。貴方はアルフォート氏の長年のご友人の一人だと聞いています」
「ヴィヴィアンは何も言わなかったのか?」
……昔の友だから気にするなと言われたので、私の独断で動いているんです」
「そうか……

エムアンドは一つ静かにため息をつくと、席を変えようと促した。バーカウンターから離れて壁際の二人席に移動して話を続ける。


「ヴィヴィアンはアルフォートを友人としてまだ見ているんだね。彼らしいな。……さて、どこから話そうか、ヴィヴィアンは一緒に居て本当に楽しいシムだったからな」
「アルフォートについてお話いただければ……
「まぁ、いいじゃないか。少しは上司の昔話くらい聞いていきなよ。当時ヴィヴィアンを中心に、僕達は集まったんだ」


僕とヴィヴィアンが知り合ったのは彼が小学生の頃だ。

僕はヴァンパイアだからというのもあって、よくナイトクラブを出入りしていた。彼とはそこで会ったんだ。幼いながらに家出をして遊ぶ彼とね。
ヴィヴィアンは確かに問題児ではあったけど、親しくなるととても楽しい少年だった。それは今もそうだろう。家に帰らない事が大きな難点ではあったものの、学面ではそれなりに成績の良い子ではあったんだ。宿題はナイトクラブのバーテンダーや客に絡む事で教えてもらっていたし、僕も手伝った。
彼は家に帰って親代わりの二人になじられるよりも、他人に甘える術をそうやって身に付けていったんだ。


アルフォートは彼が中学の時に仲良くなった転入生だった。直ぐに二人は打ち解けたよ。ヴィヴィアンはその頃から僕の家、あのコンテナマンションを溜まり場にして、アルフォートを含む何人かでつるむようになった。一方で悪人方面に顔が広くなったアンは他のストリート系の高校生シム達からも可愛がられるようになっていった。


転機はヴィヴィアンが高校生になってからの話だ。恐らく知っての通り、ヴィヴィアンは入学から間もなくして高校を退学することになる。
しかし自主退学したと聞いたならそれは間違いだ。いや、半分間違いかな。
何故なら退学の原因はそれこそ彼が自主的に退学せざるを得ない状況に「追い込まれた」からだ。
学ぶことが本来嫌いではなかったヴィヴィアンに一体何があったのか。


その日、授業が終わってからいつものようにヴィヴィアンがナイトクラブに足を運ぼうとしていると、以前から可愛いがってくれていた不良仲間の先輩が空き教室の窓からヴィヴィアンに声を掛けた。ヴィヴィアンが当時よく聞いていたアーティストの新アルバムを買ったから一緒に聞かないかと誘ってきたんだ。ヴィヴィアンに断る理由はなく、彼は先輩がいる教室に入ってしまう。アルバムで釣られた無防備な彼はそこで先輩に迫られる事になる。以前から懇意に可愛いがっていたのは下心もあったんだ。


ヴィヴィアンが油断している隙に壁に挟まれて、……あの子は強引に詰め寄られると緊張して隙ができちゃう子だからね。でもそれが起きるのは相手を信頼している証でもあるんだ。
さっきのアルフォートの写真でもその傾向が見えるだろう?


ヴィヴィアンの隣に居るのは旦那さんだね。この写真を見るにヴィヴィアンが油断したのは旦那さんが傍に居たからだろう。

……話を元に戻そう。


とにかくヴィヴィアンは襲われかける。
そう、未遂で終わるんだ。何故ならヴィヴィアンが嫌がっている間に先生が教室に入ってきたからだ。何せそこは空き教室を利用した謹慎部屋だったんだからね。
先生が入ってきたことによってヴィヴィアンの緊張は解かれ、先輩を押し返すと入れ違いに走って教室を抜け出る事ができた。

次の日、事の次第を問いただされたヴィヴィアンはあの教室が謹慎部屋だとは知らなかった、自身は襲われた側だと当然主張し、目撃した先生もそれを肯定した為先輩はその後幾日も置かずに退学処分を渡されることになる。


しかし人の噂とは計り知れないもので、それまで恋愛事にもウフフにも興味がなかった本人を置き去りにして、いつの間にかヴィヴィアンはビッチなシムだと囁かれるようになった。それまで釣るんできた仲間達の目の色が変わり、周囲からの距離が開いた。好奇心と鬱憤の捌け口に晒されていく事になる。ヴィヴィアンは確かに問題児ではあったものの人徳はそこそこある方だったが、この変化はヴィヴィアンの状況を露骨に悪化させてしまった。


加えて退学になった先輩が逆恨みをしヴィヴィアンに喧嘩を売る事件も起こり、当然黙ってやられる彼ではなかった為それをやり返し、またしても煮え切らない先輩はあの手この手でヴィヴィアンを更に貶めようとした結果、ヴィヴィアンは学校側が許容できない生徒に成らざるを得なかった。
そして一切、学校側は彼を守ろうとしなかった。もちろん両親の代理もね。
こうして彼は学校に居場所を無くし、学びも青春も諦めて自主退学する事に決めたんだ。


アルフォートはその時唯一ヴィヴィアンの傍から離れなかった友人だった。襲われたヴィヴィアンを宥め、悔しさに寄り添った。ヴィヴィアンが退学後に僕の所に来て、住み込みのバイトが決まるまで居候し出した時も、毎日のように顔を出していた。
彼は誰から見てもヴィヴィアンが好きだった。
遊び人だらけの僕らの中でも、誠実で、真面目で、寛容で、度胸があった。
彼はヴィヴィアンが先輩に襲われたことで恋愛関係には暫く希望が持てないだろうと踏み、自身の告白をずっと先送りにし続けていた。健気だったよ。


……でも、彼はバッサリと失恋する事になる。
ある日僕らのマンションに帰って来たヴィヴィアンは、その日のナイトクラブで見知らぬシムとワンナイトしてきたと笑ったんだ。アルフォートと僕はどんな顔をしたらいいかわからなかったよ。
心底何でもなさそうな顔で、「そんなに悪くなかったけど、ケンカ程気持ちよくはないな」と笑う彼の明るい声を今でも鮮明に覚えている。
しかしよくよく思い返せば彼がそんな風にあっけらかんと話すのは当然の事なんだ。だって襲われた時にヴィヴィアンが「傷ついた」と思い込んでいたのは周囲だけだったんだから。あの時ヴィヴィアンは特に気にする風でもなかったし、だからこそビッチだなんて噂が立つことになったわけで。
放心するアルフォートが振り絞って出した「どうして」に、アンは自信満々な顔で快活に答えたよ。


「俺はどうやらそこそこ魅力的みたいだから、そんなにイイならヤらせてみよって思っただけだよ」

お金も貰えるし!なんてね。
学校の噂通りになってしまうなんて危惧は彼には全く関係のない事だった。むしろ噂を乗りこなして、自身を浅く見るような劣情すら玩具にして、堂々と歩いて行ける強さしかなかった。ヴィヴィアンの事を甘く見ていたのは僕らも同じだったんだと痛感したよ。
同時にアルフォートの事は素直に気の毒だと感じた。
彼はその後混乱した頭でヴィヴィアンに言葉を何とか捻り出そうとしていた。止めればよかったと思うが、あの時は僕もそんなに冷静ではなかったから忍びない。


「……じゃあ、俺にも抱かれるのか?」
「?いいや?お前は友達だろ!ウフレにもワンナイトにも恋人にもしないよ!」

ヴィヴィアンの力強い、明確な固いポリシーによって、アルフォートは更に追い打ちで失恋を突き付けられる。ヴィヴィアンに悪気が一切ない事も加えて辛辣な現実を目の当たりにさせる。
その日からアルフォートは僕のマンションに顔を出す頻度が減っていき、アンが住み込みでカフェに入り始めた頃から姿を見せなくなった。




「……では何故今になってアルフォートは再びヴィヴィアンの前に現れるようになったんです?」
「話は最後まで聞いてよ。ヴィヴィアンがロリコンの婚約者の家に行く事になった頃、アルフォートはその姿をまた見せるようになった。あのロリコンが何者で、浮気してるって事にいち早く気付いていたみたいで、それを僕に話に来たんだ。当時僕は自分の仕事に忙しくてね、仲間達も就活の時期で暇してなかったから遊ばなくなったヴィヴィアンに声を掛けるタイミングが無かったんだ。だからてっきりアルフォートが伝えに行くものだと思っていたら、どうもそうじゃなかったようで、ヴィヴィアンは無事婚約者と玉砕して悪人を極める決意を抱く結果になっていた」
「……まさかアルフォートは今度こそ傷心の彼を落とそうとしていた?」


「その可能性は高いんじゃないかな。でも悪人を極める決意をしたヴィヴィアンはまた頑固で、ギャングワイフに入るから自分の立場が落ち着くまでは今後連絡はほとんどしない、会わないって僕らに別れを切り出したんだ」
「……彼らしいです」
「ね。それを聞いて、ああ、本気なんだなって思ったよ。……とまあそう言う事でアルフォートはまた距離を詰める機会を無くしてしまったわけだ」
「そうして、彼は新しく越した地で知り合った同僚の兄弟と親しくなり」


「親友になって、恋人になって、結婚して、子どももできた」
「……それでも諦めきれなかったんでしょうか?」
「ヴィヴィアンはアルフォートに言ったろ?友達は恋人にしないって。つまり今の旦那さんはイレギュラーの結果なんだよね、まあ当然っちゃ当然だとは思うんだけどさ」
「ではアルフォートは裏切りに対する復讐の為に近付いてきていると?」
「…………」


エムアンドは静かに首を振る。

「……アルフォートはまだヴィヴィアンを諦めていないと思うんだ。でももちろん復讐もすると思う。ギャングワイフに対してね」
「どういうことです」
「アルフォートが転入生だと言ったろう?彼は一体どこから来たと思う」
「それがわからないから聞いているんでしょう」
「違うな、君はもう気付いているんだ。でもまだ確証が得られていないからこうして証拠を集めている」
「……」


私はそっとスマートフォンを取り出すと彼の前に置いて一つの記事を出して見せた。そこには隣国の国王が犯罪者として逮捕された過去のニュースが綴られている。

「アルフォートが中学生の頃転入してきたと言いましたが、学校の記録には転入の情報は載っていません。彼は住所とそれまでの経歴を捏造して新一年生から、いえ、幼少期に母親が定期的に保育所に預けたという記録まで捏造されています。彼の目撃情報は中学時代からしか収集できていませんので、仮説として組織的に彼をこの国に隠そうとする傾向があると踏んでいます。彼がこの国に来たのはちょうど隣国の王が独断で核爆弾を多数所有していた事が明るみとなり、一時期彼の心肺停止と共にそれらが無差別に発射されるシステムを組まれていたという噂がたった頃です。実際の真実はわかりませんが、少なくとも国王には全世界を脅迫する意思があったとされています。逮捕までに時間がかかりましたが、少なくとも危険思想により厳重に監視される事となりました。その計画には息子達も関わっていたので、彼らは親子揃って終身刑となりました。私が話したいのは彼にはまだ息子が居たはずだという事です。世間に公表されている息子達ではなく、国王がまだ王太子だった頃に当時付き合っていたシムにできてしまった子ども。隠蔽されていましたが、最近になってその元カノのシムが亡くなった事によりどこからか情報が洩れて噂が広がり始めています」
「その息子が、アルフォートだと」
「違いますか?」


エムアンドは答えない。薄く微笑むだけだ。

「……アルフォートは自身が国に戻る頃合いになったと思っているはずです。そして戻った後手に入れるつもりなんじゃないかと」
「ヴィヴィアンをね」
「その為にも、彼を飼っているギャングワイフは邪魔なんですね。その上何よりも当国は今ギャングワイフにほとんどが管理されているようなもの。目の上のタンコブにしては大きすぎる。ギャングワイフを国の毒とすれば大義名分で動く事ができる」


エムアンドは腰を上げた。これ以上の会話はする気がないと言うように。
そうして無言で去って行くと思われたが、彼は最後にそっと私へと振り向いた。


「君は〝当国〟と言ったが、どうも当国に対して他人行儀だな」


「……貴重なお話を感謝します。どうかくれぐれも、事故にはお気を付けください」














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